昨年までの森ヶ崎屋上営巣地コアジサシ営巣調査で、コアジサシに待望のヒナが誕生しても、そのほとんどはチョウゲンボウに捕食されてしまい、翌週の営巣調査で生後3日目以上の大きなヒナを確認することは、難しくなって来ています。昨年は1,000羽のヒナが産まれて、その中から幼鳥として巣立てたのはわずか3羽でした。
屋上営巣地で観察をする中で、巣にいる産まれたばかりのコアジサシのヒナをチョウゲンボウがさらって行くのを何度か目撃していました。ヒナが巣の中にじっとしているのは、生後1日~2日のことです。親鳥から小魚をもらって栄養をつけ元気なヒナたちは屋上を自由に歩き回り、自分からシェルターに入ったりして、チョウゲンボウの驚異から自分で逃ると考えています。
チョウゲンボウは上空でホバリングをして営巣地の巣にいるヒナを見つけて、狙いを定めていると考えられるので、上空からの視界を遮ったらどうだろう?森進一のお袋さんのようにヒナのいる巣に傘をさして守ってあげられないだろうか?というのがそもそもの始まりです。
東大で開催された2012年度鳥学会で共著でポスター発表をした「地上営巣性鳥類の巣をカラス類による捕食から防ぐ防護柵(以下まもる君)の開発」で、屋上営巣地で行ったコアジサシ保護のためのまもる君の実験結果を基にどんな形にしようか考えながら、使える物はないかとアマゾンを見ている時に、たまたまプランタースタンドが目に入り、プランタースタンドを台にしてベニヤ板で屋根を作る構造を思いつき、一気に設計図が出来上がりました。
今年のコアジサシ飛来からの営巣調査結果をみながらヒナが産まれるのを楽しみに待ちました。そして初ヒナ誕生後の6月9日の営巣調査の日、森ヶ崎屋上営巣地で見守る君の設置検証実験を始めました。
プランタースタンドをヒナのいる巣が真ん中になるように置いて、上にベニヤ板(防水なのでコンパネを使用)を載せて、風で飛ばないようにレンガと砂利を重しがわりに載せました。上から見ると見事にカモフラージュされて、巣もヒナも見えませんでした。
設置後は15分を目安にコアジサシが見守る君の中に入って再びヒナや卵を抱くことや、抱雛・抱卵交代を確認して、両親が見守る君内に入りコアジサシの営巣に影響を与えないことを確認しています。一番早い個体では、設置後の確認のために営巣地の外へ出て振り返るともう入っていました。ちょっと気にする子でも周りを何回か歩くうちに中に入ってヒナを抱いています。コアジサシはどの個体も15分以内に全て中に入りました。15分という時間は以前行ったまもる君実験の経験とヒナへの影響を考慮して決めています。
設置後の調査で昨年は確認できなかった大きなヒナを確認したことで、見守る君設置の効果があると直感して設置を続け、数を増やしていきました。
毎週の調査毎に雛が産まれた巣、もしくは産まれそうな巣へ見守る君を移設しました。設置期間は雛が確認された6月9日(日)から雛が居なくなった8月4日(日)までの間で見守る君の設置を行っています。設置数は6月9日に5基、その後追加し最終的には20基設置しました。同じものを付け替えて使いまわしていますので延設置数はかなりの数になると思います。
見守る君設置後しばらく経つとチョウゲンボウに見守る君を見破られたようで、脇に降りてヒナを引っ張り出したり、見守る君の中をヒナをくわえて通り抜ける様子が観察されました。そこで、プランタースタンドの脚に針金を半分の高さに張り渡したり、屋根の大きさを45cm角に変更する改良をくわえました。横線をくわえる改良によりチョウゲンボウの捕食被害は少なくなっています。
外周通路やシェルター内に幼鳥一歩手前の大きなヒナを確認できて、見守る君設置によって、巣の中のヒナを守ることが出来れば、幼鳥が巣立つと確信しました。
7月7日(日)曇りのち雨
ヒナが産まれて4週間が経ちそろそろ幼鳥が飛んでいる頃と予想して1ヶ月ぶりの森ヶ崎屋上営巣地に入り、見守る君の増設と移設、脚に針金張り作業を行いました。
この日の見守る君設置観察で確認できたのですが、縦線を横線と結ぶように針金を張ると一部のコアジサシで入るのを嫌がるようになりました。過去のまもる君設置実験でもそうでしたが、約半数のコアジサシが入らない可能性があります。コアジサシの巣入りの行動パターンが関係しているようです。縦線を張る場合には横線と結ばないように、プランタースタンドの上下の枠を結ぶように張るとどのコアジサシも入るようでした。真ん中に出来る結び目が気になるのか?良く分かりませんが、コアジサシの性格が現れて面白いと思うところです。
見守る君を設置するのは、ヒナが 産まれている巣ですが、設置作業をする日に都合よくヒナが産まれているということは少ないので、営巣調査の結果から今後ヒナが産まれそうな巣へも設置しました。見守る君を設置することでカラスの捕食があるのではとご心配かもしれませんが、カラスは新しいものに危険を感じて近寄ることはありません。ただし、今後カラスが見守る君を覚えて慣れた時は、そこにヒナがいて卵があることを教えることになるので、ダミーを置くなどの工夫が必要になると思っています。
昨年は見ることが出来なかったかなり大きなヒナと幼鳥を確認して、見守る君効果ありと判断しましたが、見守る君がチョウゲンボウからヒナを守ったという直接的な証拠は得ていません。見守る君を設置することによって昨年は1,000羽のヒナから3羽の幼鳥巣立ちでしたが、今年は400羽のヒナから15羽の幼鳥が巣立っています。その数字が全てとの思いから今年の鳥学会に参加して、森ヶ崎屋上営巣地で行ったチョウゲンボウ対策についてポスター発表という形でご報告させていただきました。
お出でいただいた皆さまから貴重なご意見、アドバイスを頂戴いたしました。今後は見守る君効果ありの確証を得られるように森ヶ崎屋上営巣地に於いて、見守る君設置検証実験を続けて行く所存です。どうぞよろしくお願いいたします。
他のコアジサシ営巣地に於いて見守る君を試してみたいとお思いの方は、ぜひ設置してみてください。そしてその時の状況などご報告いただけましたら、この上ない喜びとなります。また見守る君についてご質問等あります時はどうぞコメントやメールにてお問い合わせ願います。
質問受付メールアドレス:hogoseibi@littletern.net
なお現在デコイ回収作業申し込みに対する自動応答設定になっていますが、返信メールを別途送らせていただきます。よろしくお願いいたします。
鳥学会2019年度大会 帝京科学大学千住キャンパス
ポスター発表 P021 対チョウゲンボウ用コアジサシ巣内雛保護シェルターの開発『見守る君』の効果について
見守る君設置検証実験を行わせていただきました森ヶ崎水再生センターさま、設置検証実験にご協力をいただきましたすべての皆さまに改めて御礼申し上げます。
鳥学会ポスター発表にあたりましては共著にお入りいただいた奴賀さん、北村代表にご指導を賜りました。ご協力に感謝いたします。ありがとうございました。
屋上営巣地の現場で見守る君設置作業及び観察をお手伝いいただいた橋本さんに多大なるご協力をいただきました。改めて感謝申し上げます。お疲れ様でした。ありがとうございました。
NPO法人リトルターン・プロジェクト
保護整備部会 松村雅行